映画「生きる街」の音楽について


 

3月3日、いよいよ榊英雄監督映画「生きる街」が公開された。

これから全国で順次公開されて行く予定である。

この作品の音楽は榊いずみさん。自分も、音楽チームの一員として、いずみさんの作り出すメロディーをアレンジして、

様々な楽器を演奏した。

「生きる街」は、石巻を舞台にした、震災後の家族の物語だ。

あらすじは、オフィシャルサイトから抜粋させてもらう。

“生まれ育った海沿いの町で、漁師の夫、2人の子どもと幸せに過ごしていた佐藤千恵子(夏木マリ)の暮らしは、2011年3月11日に一変。津波に流された夫は帰って来ない。それでもいつか夫が戻って来ると信じて、千恵子は地元を離れずに生きている。しかし、あの日を境に、今は離れて暮らす子供たちもまた癒えない傷を抱えていた。被災のトラウマから子供を持つことを恐れる娘の香苗(佐津川愛美)と、何でも震災のせいにして人生から逃げる息子の哲也(堀井新太)。そんな家族の前に、かつて同じ町に住んでいたドヒョン(イ・ジョンヒョン)が韓国からある人の手紙を持ってやって来る。

手紙に託された想いに触れたとき、止まっていた家族の時間がゆっくりと動き出すのだった――。”

 

2月26日に、この映画のShow Case Liveが渋谷TSUTAYA O-EASTで開かれた。

夏木マリ、主題歌を歌うBRAHMAN、音楽担当の榊いずみの3組のライブと監督、キャスト、スタッフのトーク。

今回の役を受けるには勇気が必要だったというマリさんの想い。

主題歌を作るまでのTOSHI-LOWさんのエピソード。それぞれ、胸を強く打つものがあった。

 

サウンドトラックの製作が2017年の3月終わり頃だったので、一年近く時間が経ったこともあり、皆さんの話を聞きながら、また新しい気持ちで新鮮にこの映画に向き合うことができた。

 

 

音楽の製作は(榊組の場合)撮影後、映像があらかた編集されてから始まるため、寝食を共にして、眠る時間も惜しんで撮影してきたチーム、カットになったシーンへの役者の想いなどなど、撮影現場の空気感を感じることはない。

 

良い意味で言えば、全く情報がない中から、まっさらな視点で(観客に近い視点で)作品に対峙できるポジションになる。(いずみさんは、子供達と一緒に最後のシーンの撮影に石巻に赴いている。大きな余震で津波警報が出た日だ。)

 

いずみさんは、この映画のメインの音楽は「波の音だ」と言った。

ことさら感情を煽るような派手な音楽は無し、無駄な音をそぎ落として、最小限に作っていこうと。

 

最初に手をつけたのは、冒頭の千恵子が自転車で坂道を降りて行くシーン。映像だけで十分に説得力がある。

いずみさんが作ってきたメロディーを、スタジオに置いてあったアップライトピアノで単音のみで弾いた。

ただただ本当にシンプルな音だったので、監督がどう反応するか心配だったのだけれど、監督は、

「これでもう映画のイメージが決まった」と言った。

音が少ないのだがそれゆえに、いずみさんの作るメロディーが際立って聴こえたのだろう。

 

メインテーマになるメロディーがうまくはまったので、そのほかのシーンもその延長線上を行くイメージで製作して行った。

基本の音はピアノ。グランドピアノではない、アップライトピアノの音が、この映画の質感にマッチしたのではないかと思っている。

荘厳というよりは、素朴な、生活に近い音。

 

ドヒョンが石巻を訪れるシーン。香苗の涙が止まらなくなるシーン。哲也が胸の内を吐露するシーン。それぞれに、映像を壊さない音楽を寄り添わせて行った。

クリックも使っていないので、映像の終わりと音楽の終わりがきちんとマッチするまで、何度もピアノを弾き直した。

 

音数が多くて大変だったのはスーパーの店内で流れている音楽や(こういうのも全て作って行くのだ)居酒屋の演歌(いずみさんが熱唱)千恵子の民泊でみんなが宴会している時に聞いている演歌(いずみさんが風邪をひいていたため、自分が熱唱。。)あたり。

 

深夜、香苗が千恵子を抱きしめるシーンでは、2パターンのアレンジを作った。一つはピアノのみの音。

もう一つはストリングスが入ったもの。

最終的なダビング(映像に音をはめて、バランスをとって行く作業)の日、ここでも、監督といずみさんの意見はシンプルな方へ動いた。音楽は観客の感情を良い方にも悪い方にも動かしてしまう危険な力がある。だからこそ、神経を使って慎重に。

 

ラストシーンで、ようやくストリングスやギターの重なった音が出てくる。

そしてBRAHMANの「ナミノウタゲ」に引き継がれ、映画は終わる。

 

僕はポストプロダクションからの参加だったのだけれど、ダビング時にスタジオにやってくるスタッフの皆さんの、何気ない一言や意見から、それぞれのこの作品への深い想いを受け取った。

故郷を東北に持つ人もいれば、そうでない人もいる。僕も東京であの震災を経験した一人であり、津波の現場の本当の姿は知らない。

けれど、記憶が薄まって行っても、誰もが癒えることのない傷を抱えている。

見終えた後に家族のことを考える、そんな映画になっていると思います。

 

 

ぜひ劇場で観てください。

 

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